キャブレターエンジンで時折起こるオーバーフローは、ありふれた故障であると同時に、高い可燃性を持つガソリンが漏れ出すことになるため非常に危険な故障です。
オーバーフローが起こる原因の多くはフロートバルブの劣化や異物の噛み込みです。オーバーフローが起こるメカニズムと対処方を解説するとともに、修理方法や対策方法を紹介します。
目次
- キャブレターのオーバーフローが起こったら即座に燃料コックをオフ!
- オーバーフローはなぜ起こる? ほとんどがフロートバルブの異常
- オーバーフローが引き起こすエンジントラブル
- オーバーフローを修理するにはキャブレターの分解が必要
- まとめ:オーバーフローの発生確率はメンテナンス次第で下げられる
キャブレターのオーバーフローが起こったら即座に燃料コックをオフ!
オーバーフローは、和訳すると「溢れ出る」を意味し、キャブレターのパッキンや燃料供給ルートの異常によってガソリンが溢れ出るトラブルのことを指します。オーバーフローが発生するとタンク内にあるガソリンがすべて流出するまでオーバーフローは止まらない場合もあります。
ガソリンは常温で非常に気化しやすい乙種4類の危険物であり、衝撃や、静電気などでも発火の恐れがあります。ガソリンが漏れ出すと火災に発展するため、オーバーフローが起こったら即座にガソリンタンクのコックをオフにしましょう。
キャブレターの燃料供給メカニズム
キャブレター下部のフロートチャンバーには常に一定量のガソリンが溜まるようになっており、この仕組みは「フロート」と「フロートバルブ」という部品が機能することで実現しています。
フロートとは内部が空洞になった「浮き」であり、フロートがガソリンの液面上で浮き上がることで、フロートに備わったフロートバルブがキャブレター内部のガソリン供給口を塞ぎます。
ガソリンが消費されればガソリンの液面が下がり、フロートは沈みます。するとフロートバルブによって塞がれていたガソリン供給口が開きガソリンがキャブレター内に流れ込みます。
この動作が連続的に繰り返されることで、キャブレター内部のガソリン量は一定に保たれます。
オーバーフローはなぜ起こる? ほとんどがフロートバルブの異常
キャブレターがオーバーフローを起こすおもな原因は以下の3つです。
- キャブレターの割れによる燃料漏れ
- フロートの破損や調整不良による油面高の異常
- フロートバルブの劣化や動作不良、異物の噛み込み
キャブレターに亀裂などが入ると、当然として内部に溜まったガソリンが漏れ出します。その他の原因のほとんどは、フロートもしくはフロートバルブの異常です。
フロートに穴が空くと、船が沈んだかのごとくフロートが浮き上がらずフロートバルブも閉じることができなくなります。フロートの材質はプラスチックや真鍮が多く、破損しやすいため取り扱いには注意が必要です。ジェット交換時、ドライバーで締付ける際の滑りによる破損にはとくに注意しましょう。
もっとも多いオーバーフローの原因はフロートバルブの劣化や動作不良です。なかでもとくに多いのは錆やゴミなどの異物の噛み込みとなります。
オーバーフローが引き起こすエンジントラブル
オーバーフローが及ぼす影響はガソリン漏れによる火災の危険だけではありません。場合によってはガソリンが外に漏れ出さずに、吸気通路にだけ微量に漏れ出すこともあります。
そうなると、漏れ出したガソリンはエンジンのシリンダーに流れ込み、エンジンオイルに混ざるとオイルを希釈させ、エンジン内部の潤滑性能を低下させます。それに気づかずバイクを走らせると、エンジン内部のベアリング等が焼き付きを起こし、最悪はエンジンブローに陥る場合があります。
キャブレターには一定以上油面が上昇すると、自動的に外に排出するオーバーフローパイプ機構も備わってはいるものの、配管が詰まったり、オーバーフローパイプ以上の量で燃料が供給され続けた場合、オーバーフローしたぶんの燃料は、フロートチャンバーの接合部から漏れ出すか、吸気側へ流れ込んでしまいます。
なかにはオーバーフローパイプが備わらないキャブレターもあります。
エンジンがかからない現象はスパークプラグのカブり
オーバーフロー気味だと燃調も濃い方向に変化するため燃焼効率悪化によるパワーダウンやスパークプラグに燃料が付着して点火できない状態に陥る、いわゆるスパークプラグの「カブり」が起こる場合もあります。
ブラグがカブったら、しばらく放置するか、ブラグを外して洗浄して乾燥後、再度エンジン始動を試みましょう。
エンジンが止まらない現象は「ランオン」
吸気通路に漏れ出すガソリン量が多い場合、エンジン停止直後の熱い状態のシリンダーに流れ込むことで燃焼し、キーをオフにしてもエンジンが停止できない「ランオン」に陥ることもあります。
ランオンから車両火災につながる恐れもあるため、ランオンが発生した場合も慌てず即座に燃料コックをオフです。オーバーフローはさまざまな危険を呼び込む危険があることは覚えておきましょう。
オーバーフローを修理するにはキャブレターの分解が必要
いずれの状態であっても、オーバーフローを修理するにはキャブレターの分解整備が必要です。場合によっては分解して組み直すだけでオーバーフローが解消されることもあります。
エイプで陥ったオーバーフローも、分解して組み直すだけで直りました。おそらく分解の途中でフロートバルブに付着していた異物が除去されたのでしょう。組み直しただけでオーバーフローが直った場合は、もれなくフロートバルブへ異物噛み込みが原因であると断定できます。
キャブレターのフロートチャンバーに異物が沈んでいるようなら確定的です。ガソリンタンクから燃料に混じって流れ込んだ大きめの錆ひと粒がバルブに噛み込むだけで甚大な燃料漏れ引き起こしてしまうのがキャブレターのもっとも怖いところです。
キャブレターを分解したら、念の為フロートバルブの状態も確認しておきましょう。バルブの異物噛込みに次いで、オーバーフローを引き起こす原因として多いのは、フロートバルブゴムの劣化です。
フロートバルブゴムが極端に硬くなっていたり、変形しているようならバルブゴムの劣化が疑われるためフロートバルブ自体を交換しましょう。
まとめ:オーバーフローの発生確率はメンテナンス次第で下げられる
エイプ50の純正キャブレターであるケイヒン製PC14は、フロート全体がプラスチックでできているため、フロート高は調整できません。裏を返せば、油面高の異常は起こらないということです。
ただし、フロートの破損やフロートバルブの組み付け不良は起こりえます。キャブレターを分解したらフロートバルブの状態に加えて以下の4点をチェックしましょう。
- フロート内部空洞に燃料が入り込んでいないか
- フロートバルブは正常な位置に付いているか
- フロートの動作は良好か
- オーバーフローパイプに詰まりはないか
この4点をチェックすることで、オーバーフローの発生確率を最小限に抑えられます。数日に渡ってバイクに乗らない場合は、万が一に備えて燃料コックもオフにしておきましょう。
フロートが浮き上げられた状態は、フロートバルブを押し付けている状態と同義であるため、エンジンを完全停止させる前に燃料コックをオフにし、フロートチャンバー内のガソリン量を減らしておくことでフロートバルブの延命にも貢献します。
また、タンクを覗き込んで錆がなくとも奥の方で錆が発生している場合もあるため、古いバイクには特別な理由がないかぎり燃料フィルターの追加をおすすめします。
ろ過性能が高いのは紙製のフィルターです。そのほかナイロンフィルターや金属メッシュ、磁石で錆を吸着するマグネットタイプなどがあります。錆は一般的に非磁性体ですが、組成によっては磁石にくっつきます。