ヤフオクで購入した中古エイプのエンジンを載せ替え、ナンバーも取得し、ようやく乗る準備が整ったエイプ。人生ではじめてバイクに乗った経験談を、私小説でつづる第三話。
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田園風景の一本道をトコトコ進む。
タイヤが2本しかなく、自立することすらできないバイクという乗り物は、もっと不安定なものかと思っていたが、思っていた以上に安定感がある。
もっと大きなバイクと比べればエイプの走りは軽快なものなのであろう。しかし、初めてバイクに乗る私にとっては、エイプの小さな車体でも、馬に身体を預けるような安心感と重厚感が感じられた。
直線は終わりをむかえ、坂と停止線が目の前にせまってくる。
坂とはいっても、車にとっては坂道ともいえないわずかな傾斜。一段低くなった田んぼ道の土手を乗り越えるほんのわずかな傾斜だ。
しかし、バイクの操作に慣れない私にとっては、傾斜はいつも以上に急に感じられた。
傾斜による抵抗で減速の感覚がつかめず、ブレーキのタイミングが決められない。
もっとスピードが出ていれば予測がしやすいのだが、極低速からの坂道のブレーキは予測に反して減速し、停止線のはるか手前で停止した。
全長5mほどの緩やかな坂道のど真ん中で停車してしまった私は、坂道発進の必要に迫られた。
呼吸を整え、握りこんだクラッチレバーをわずかに緩めて、エンジンがストールする直前のクラッチが繋がる位置を再確認する。
ブレーキペダルを踏みしめた右足は、傾斜による重力と拮抗するギリギリの位置で固定した。
大きめにスロットルをあけ、クラッチを調整しながら右足のブレーキを緩める。しかし、1度目はあえなくストールする。
リリースの遅れたリアブレーキにより、抑制されたエンジントルクが傾斜に競り負けた。
2度目は、半クラッチの時間が短すぎたことと、四肢の連携がうまく取れずに再びストールする。
3度目はやぶれかぶれの操作だった。
スロットルとクラッチ、リアブレーキの制御。さらに左右のバランスを取りながら、後退にも注意を払わなければいけないバイクの坂道発進は自動車以上のマルチタスクを迫られる。
今の私にはまだムリのようだ。バックミラーに背後から迫る車影が映り、私はバイクを降りた。
路肩にへとバイクを押しやり、こちらを注視するハイエースのドライバーに向けて「なんでもない。先に行け」と腕を使って合図を送る。
フルフェイスのヘルメットで顔が見えないことが幸いした。私の顔は赤面していたことだろう。
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