先日エイプに載せた中古50ccエンジンのバルブクリアランス調整の作業レポートです。とくにタペット音がするわけでもないのですが、エンジンの状態確認を兼ねてチェックをしておきます。
自動調整機構が備わらないエイプのエンジンバルブクリアランスは走行距離や温度変化によって徐々にズレてきます。気温が大きく変化する夏と冬に突入する前の、年2回は確認しておきましょう。
とくに中古車両や中古エンジンは、どういう状態になっているかわからないため、確実にチェックしておきましょう。
バルブクリアランス(タペット)調整とは?
バルブクリアランスとは、吸気と排気をコントロールするエンジンバルブと、カムの動きをバルブへ伝えるロッカーアームの隙間を指します。
この隙間が大きくなると、バルブリフト量の減少と、カムの動きとバルブの動きの間にわずかなタイムラグが発生するため、エンジン性能が発揮できません。
また、走行距離が伸びると、ズレやタペットスクリューの摩耗によって隙間が広がり、「カチカチカチ」とロッカーアームがバルブコッターを叩く「タペット音(ラッシュ音)」が大きくなります。
金属の体積は温度によってわずかに大きくなったり小さくなったりします。エンジンが冷えた状態でバルブクリアランスをゼロにしてしまうと、エンジンが稼働温度になったときに膨張ぶんだけバルブを押し下げてしまうことになります。
そのため、バルブクリアランスを狭くしすぎると、バルブはつねに押し下げられている状態になるため、バルブとバルブシートの間に隙間ができ、燃焼室の気密を確保できなくなり、圧縮を確保できずにパワーダウンしてしまいます。
つまりバルブクリアランス調整とは、ロッカーアームの熱膨張を見越して、エンジンの適正稼働温度でのバルブクリアランスを少なくするための調整作業です。
修理
部品到着までの応急処置として、変形したアジャストスクリューをヤスリで削って、先端を平らにし、さらに細目の紙ヤスリで表面を整えます。
エイプ50のバルブクリアランス値は0.05〜0.1mmです。0.05mmを目標に組み付けますが、短くなったアジャストスクリューではネジ山が足りずに調整できません。とりあえずクリアランスは大きめながら、規格内に収まるようにシックネスゲージを使って調整します。
始動テスト
キックペダルがわずかに重くなり、圧縮が確保されたことが確認できました。エンジンは始動したもののアイドリング回転数が大きく下がってしまったため、アイドルスクリューを回して調整します。
修理・調整後は、しっかりとタペット音がするようになりました。排気音は静かになり、突き刺さるようだった音の輪郭は、丸みを帯びたマイルドな排気音へと変化しました。
エンジンが温まると、タペット音は小さくなり、これまでのエンジンとは別物と思えるほど滑らかに吹きあがります。
低速トルクも明らかに増し、以前はエンストしていた坂道発進もラクラクこなせるほどになりました。これまで5,500rpmしか回らなかったエンジンは、やや苦しげながらも6,000rpmまで回るようになりました。
これで、おおよそ50cc本来の性能を取り戻したと思われます。中古車両や中古エンジンはどのような使われ方をしたかわからないため、始動前に確認をしておきましょう。これを怠ると、場合によっては、1発目の始動でエンジンを壊す恐れすらあります。
エンジンヘッドの駆動バルブ周りは、4サイクルエンジンの要とも呼べるほど重要な箇所です。
エイプのバルブクリアランス調整には、9mmのレンチとシックネスゲージが必要です。
エイプ50は別途角型の特殊レンチが必要ですがラジオペンチなどでも代用できます。
エイプ100なら柄の短いマイナスドライバーがあると調整しやすくなるでしょう。
後日、短くなったアジャストスクリューは新品に交換。せっかくなので、エイプ100用を流用しました。エイプ50用は角レンチが必要ですが、100用を流用すればマイナスドライバーで調整できるようになるため作業性がアップします。
↓翌年の調整の様子です。アジャストスクリューの摩耗度合いをまとめています。
↓以下記事では、バルブクリアランスやタイヤ空気圧など、忘れがちなメンテナンスデータを備忘録としてまとめています。