ダンピングのまったくきいていないフロントフォークのオイル交換と、引っかかり感のあるステムベアリングのグリスアップをおこないます。
私のエイプのフロントまわりには、購入時からai-NET(アイネット)というメーカーの格安フロントフォークがついていますが、前オーナーはただポン付けした様子。いろいろと不具合がありました。
フロント周りの分解
配線、配管、ステーが複雑に絡み合うフロントセクションの分解は段取りが肝心です。設備の整っていない環境では、どの手順で進めるかで作業時間が大きく変わります。
まず最初にすることはフロントフォークのトップボルトを緩めること。トップボルトはダンパー内の気密を保つために、かなりの高トルクで締めつけられています。
大きな万力などない場合は、フォークが車両についた状態で緩めておくのがベストです。トップボルトは、レンチを鉄パイプで延長してようやく緩むほどのかたさ。フロントタイヤのドライブシャフトも同様に緩めておきます。
あとは車体を持ち上げて各部を分解。配線や配管に負担をかけないように注意して養生しながら作業を進めます。
ai-NET(アイネット)フロントフォーク・ディスク化キット
私のエイプには購入当初からアイネットというメーカーのフロントブレーキディスクキットが装着されています。
大径ブレーキディスクと、ノーマルよりひとまわり太いダンパーを備えながら、価格の安さが魅力の商品。しかし、安い商品にはそれなりに理由があるようです。
封入されたオイルの色は乳白色を保っていたため、フォークを交換してからそれほど時間は経っていないと思われます。
それにもかかわらず内部にサビがみられました。また、ネットでのレビューであるように、出荷状態でのオイル量はやや少ない模様です。
内部にはバリアブルレートのスプリングと、たよりない筒状のカラーが封入されていました。インナーシェルとステムの固定軸が完全一致しないのは、簡単に外れないようにするための処置でしょうか。 とにかく、低コストであることは素人目にもわかります。
取付け時は要調整
乗り出し当初はから感じていた動きの渋さは、製品の加工精度によるものだと思われます。
外した状態で伸縮させてみると、インナーシェルとアウターシェルの位相位置によっては妙に動きのかたい部分があり、しっかりと動作させるには取りつけ時に調整が必要です。
また、ダンパーの加工精度、付属のフロントタイヤ位置決め用のカラーの寸法誤差、やアクスルシャフトの締め付けトルクの違いによってもダンパーの摺動抵抗となり動きが悪化します。
これらの原因は機械加工精度の低さ、もしくは、加工精度の低さをカバーするためシールのテンションが高すぎるのかもしれません。
ダンパー自体でフロントタイヤとボディをつなぐバイクのフロントサスペンション構造は、機械的にみて合理的とはいいがたい構造です。
ダンパーのわずかな精度の違いやキャスター角度・車重(ライダー含む)でフロントフォークに加わる力のベクトルが変化するため、もともと個別に調整が必要な部分なのかもしれません。
ダウンフェンダーステーによって、アウターシェルに余計なテンションがかかっている場合もダンパーの動きに渋さが出るので要調整です。
フォークオイル交換
今回はダンパーの分解はせず、フォークのオイル交換のみをおこなうため、オイルを抜いて入れるだけです。
規定量より少しだけ多めにオイルを入れ、エア抜きのためにフォークを伸縮。フォークを往復させると、液面に細かい泡が浮かんでくるのが見えます。
10回ほど伸縮させてからしばらく放置し、完全にエアが抜けるのを待ちます。
泡がでないことを確認したら、フルボトムさせた状態で液面131mm(純正基準値)になるように調整し、スプリング、カラーを入れてトップボルトを締めつけて完了です。
ステムベアリンググリスアップ
購入当初から、曲がろうとしても一瞬ハンドルがロックしたようになる症状がありました。これは明らかにステムベアリングの劣化です。
分解し、まったく負荷のない状態で左右に動かしても、ゴロゴロとした動きの悪さが伝わってきます。これではステア時に引っかかって当然です。
上下のニードルベアリングにはグリスがまったくついておらず、サビが発生していました。とくに下側はベアリングがガタガタの状態です。
新品交換したいところですが、部品がないためグリスアップに留めます。
おそらく出荷状態ではほんのわずかにしかグリスが塗布されていないのでしょう。ゾイルの金属面改質グリスをていねいに塗り込み、手で回して異音の出ないレベルまで改善しました。
トップボルトの締め付けトルクは、転舵フィールの悪くなリはじめるポイントまで締めつけてから、わずかに戻した部分で固定します。
グリスアップ後はガタツキも抵抗もなく、滑らかにステアするようになりました。
作業の際は、ステムの下側を抜いたら、上側にラチェットなどの棒を差し込んでおくとハンドル回りの装置類を外すことなくグリスアップ作業ができます。
ヘッドライトは、配線などに負担をかけないように結束バンドで吊り下げておきましょう。
実走
組み付け終えた状態で、右のダンパーに渋さを感じたためフォークのインナーとアウターの位相位置を再調整しました。
フォークの固定ボルトを緩めてインナーシェルをひねって回し、再度固定しては伸縮させて動きを確認します。
それを4〜5回くりかえして、ようやく一番抵抗の少ないポジションを見つけました。
手で伸縮させる限りでは自然にダンパーが伸び縮みするように思えます。だいぶ改善したとはいえ、まだわずかなひっかかりを感じます。
路面の荒れたテストコースで試乗すると、滑らかな乗り心地に変化しました。乗り心地に関してはフォークオイルではなく、ダンパーの動きの渋さが大きな原因だったようです。
道路を横断する排水口の2〜3cmはあろうかという段差も、それと意識することなく乗り越えられるまでに改善されました。
ダンピング性能が向上し、路面の凹凸にしっかりと追従しているのがわかります。フロントブレーキを効かせるとスムースにフォークが沈み込み、ブレーキリリースにあわせてダンパーの伸縮をコントロールできます。
ただし荷重移動のスピードはほとんど変っていない様子。使ったフォークオイルはヤマハ純正オイルの#10。原付ならこれでじゅうぶんですが、60km/h出すならもう少し固くしたほうが安心感がありそうです。
最適なオイルの粘度はバイク固有の内部バルブ径によっても変化すると思われます。
ステムベアリングの様子
ひっかかりなくスムースに操作できます。スラローム、定常円旋回でもバランスを崩すことなく操作できそうです。
しかし、直進を保つためにハンドルをしっかりと保持しなくてはいけなくなってしまいました。ステムの締めつけトルクが、やや緩すぎるのかもしれません。
フロントフォークメンテナンスのまとめ
1つひとつの部品が小さく、厳密なトルク管理が必要なバイクのパーツは、取りつけの加減ひとつで性能が変化します。多くのパーツは、つるしの状態ではパフォーマンスを発揮しきれないと思われます。
バイク屋の工賃が高いと感じるのは入念なセッティングが必要だからかもしれません。もちろん、ただ取りつけるだけで済ませるバイク屋も存在するでしょう。
バイクに乗るには、どうやら調子の良し悪しをしっかりと吟味できる知識が必要のようです。
↓2021年4月、フロントフォークのオーバーホールをした記録です。アイネットのフォークは純正部品が使えるため問題なくオーバーホールして使えます。
↓乗り心地に大きく関わるリアサスペンションのグリスアップの様子はこちら。