これまで、ドライブトレインと操作系、サスペンション各部に『LSベルハンマー 山中スペシャル』を使用して結果をレポートしてきました。
その総括として使用感や使用量、使用上の注意点や使っては行けない箇所についてを雑感や考察も交えてお届けします。
- ベルハンマーの取り扱いには注意が必要!
- 注意箇所①ブレーキ・湿式クラッチ
- 注意箇所②ボルト・ナット
- 注意箇所③樹脂・プラスチック・ゴム
- 注意箇所④ドライブチェーン
- まとめ:価格と使用量のコストパフォーマンス
↓『LSベルハンマー 山中スペシャル』とは?
ベルハンマーの取り扱いには注意が必要!
ベルハンマーは、チムケンテストと呼ばれるローターに金属片を押し当て、摩耗や焼き付きを起こす荷重を調べられる試験方法によって、その性能の高さが実証されています。
説明動画によると、ベルハンマーによって一度潤滑面が出来上がった場合は水やブレーキクリーナーで除去しても潤滑性能が持続するそうです。
そのため、オイルが切れても、雨に打たれても潤滑性能が持続する反面、簡単な清掃程度では潤滑性能を除去できないことを意味します。そのため、不適切な場所へ付着した場合は大きな危険を伴うことになります。
ベルハンマーは、それほど特殊な潤滑剤であり、使用が推奨されている箇所であっても注意が必要です。
ベルハンマーの取扱説明書やQ&Aには、以下のような内容の文言が必ず記載されています。
"ご注意(免責)
ブレ-キ・クラッチ・特にバイクのエンジンオイル(湿式クラッチ)等、摩擦で動作を制御する箇所には絶対に使用しないでください。
本商品は自己責任にて使用お願いします。
本製品を使用した塗布対象物の物性変化それに伴う動作等の影響に関しては 一切保障いたしません。"
とくに特殊極圧潤滑成分を18倍にまで濃縮した『LSベルハンマー 山中スペシャル』は、高い極圧潤滑性を誇る代わりに、それだけ使用リスクも高いということになります。
また注意されるのは潤滑性能に関わる言及のみで、塩素と硫黄が含まれる極圧成分が及ぼす影響に関してはほとんど言及はされていません。場合によってはギアオイルのGL値の違いのような極圧成分量の違いによる悪影響も懸念されます。
注意箇所①ブレーキ・湿式クラッチ
チムケンテストの動画では「摩擦を与えて潤滑面がつくり出さなければ、ブレーキクリーナーですぐに落ちる」と説明されており、実際にそのとおりになっています。
ただし、一度潤滑してしまうと、ブレーキクリーナーでも落ちない強固な合金皮膜が形成されるため、万が一ブレーキに付着したまま走行してしまった場合は、一切ブレーキが効かなくなってしまいます。
潤滑状態に陥ってしまったら、薬液を除去したうえで研磨してやらなければベルハンマーの効果を除去することはできません。
ブレーキやクラッチディスクにベルハンマーが付着したら
ベルハンマーによってできた合金皮膜は数ミクロンしかないため、容易に削れるそうです。
ブレーキの場合は安全な場所でスロットルを開けて走行しながら該当箇所のブレーキをかけて、ローターおよびディスク(ハウジングおよびライニング)の摩耗を促しやることで制動力を復活させることができるとのこと。
またクラッチも同様に、高い摩擦力を利用して動作する機構です。ミッションとエンジンが一体になったバイクは、エンジンオイルがギヤオイルを兼ねているため、エンジンオイルにベルハンマーが混ざり込むと、クラッチ滑りを起こし加速不良や発進不可能状態を引き起こします。
公式に言及はされていませんが、混入したエンジンオイルをしっかり除去したうえで、急発進などクラッチを摩耗させる操作を行うことでベルハンマーの影響を取り除くことができるかもしれません。
注意箇所②ボルト・ナット
ボルトナットの締結にも摩擦力が利用されています。ベルハンマーがネジ山に付着すると、滑らかにネジが回るようになるため、高い浸透性も手伝って固着を取り除くことができます。
しかし、締め込むネジ山にベルハンマーが付着していると、その優れた潤滑により、同じ力で締め付けたとしてもオーバートルクになります。
トルクレンチなどで締め付けトルクを一括管理する場合には、規定どおりのトルクをかけるとネジの破断やネジ山の破損を引き起こしかねません。
とくにサスペンションリンクやアクスルシャフトなどグリスを塗布して使用するボルトにベルハンマーを使用すると、ネジ山に薬液が付着しがちです。
薬液をブレーキクリーナーなどで除去したつもりでも潤滑性が残っている恐れがあり、徹底した除去に加え、抵抗を手で感じて締め付けトルクも必要に応じてコントロールする必要があります。
注意箇所③樹脂・プラスチック・ゴム
ベルハンマーは第4石油類に分類されており、樹脂類を侵さないと説明されています。ただし攻撃性がないとされるのは、耐油性が持たされたゴムや樹脂、プラスチックに対してです。
代表的なものを挙げると、天然ゴムやブチルゴムへは使用不可。ニトリルゴムやウレタンゴムへは使用可能。シリコンゴムにはやや影響があり、なるべく使用しないほうがよいとのことです。
樹脂に関しては、塩化ビニールやポリエチレン、ポリプロピレンなどには使用できません。家庭で多く使われる多くの樹脂は、おおむね使用禁止対象に指定されています。
それに対し、車やバイクに使用されるゴムや樹脂はほとんどが耐油性が持たされており「まったく、あるいはほとんど影響がない」とされています。
ただし、第4石油類とはいえベルハンマーも石油製品であるため攻撃性がゼロということはありません。おおむね「樹脂を侵さないと謳うパーツクリーナーと同じ程度の攻撃性」ということだと思われます。
以下のページでは樹脂の種類別に分けた使用可否に加え、ベルハンマーの性状や温度特性などが解説されています。
注意箇所④ドライブチェーン
バイクでは、ドライブチェーンへのベルハンマー使用が高い効果を発揮します。ただし、一般的なグリスより柔らかいベルハンマーをチェーンルブとして使用すると、回転時の遠心力により必ず飛散します。
飛び散る量はチェーンの種類や塗布量、速度などに応じて変化するものの、ほんの微量の塗布でもチェーンに熱が入り、おおよそ30km/h以上の速度を出すともれなく飛び散ってしまうことを確認しています。
スズキ工機によれば、飛散するの余分な量のみであり、チェーン自体には十分な薬液が残っているそうです。
実際に、ローラー隙間等には潤滑に十分と思われる油量が残っていることを目視で確認できているため、飛散するからといってベルハンマーがチェーンルブとして使えないと断じることはできません。
むしろ、ベルハンマーをチェーンに塗布した後は余分な薬液を拭き上げ、かつ低速から徐々に速度を上げて薬液を飛ばす試運転が使用上の必須事項です。
飛散してリアタイヤに付着したオイルを拭き取らなければ悲惨な目に遭うでしょう。そのため速度が出るバイクや、高速道路を利用するライダーほどベルハンマーの使用リスクが高いことになります。
ベルハンマーはチェーンルブ代わりに使えるか?
また、耐久性にも一考の余地があります。
『LSベルハンマー 山中スペシャル』は、実際に山中琉聖(やまなか りゅうせい)選手のレース車両で使用されているものの、潤滑性能は同等であっても1レース持てばよいレース車両で求める耐久性能と、永年に渡って使われる一般車両で求められる耐久性能の質は異なります。
ベルハンマーには、ある程度の粘度と防錆性、水置換性などチェーンルブとして必要な要件は備わっているものの、一度塗布して放置とはいかないでしょう。一般的なチェーンルブに比べ、頻繁な状態チェックは必要になるかと思われます。
高い親和性によりグリスやオイルに添加して使える特性から、ベルハンマー注油後、より硬いチェーンルブでコーティングすることで、適度な潤滑性能を保ったままと飛散しにくい粘度に調整する使い方も可能かと思われます。
まとめ:価格と使用量のコストパフォーマンス
これまで、ドライブトレインと操作系、サスペンション各部に使用して結果をレポートしてきました。ベルハンマーをバイク全体に使用しても使用量はわずか30ml程度です。
化粧品詰め替え用の注射器を使って最小限の量を塗布することで、さらにムダな使用を抑えることができます。
もっとも大量に消費したのフォークオイルへの添加であり、それさえ省けば使用量は実質20ml程度です。1本購入すれば1〜2年程度は使えると思われます。
『LSベルハンマー 山中スペシャル』の価格は、通常の『LSベルハンマー原液』よりも2倍近く高額な、80ml入りボトル2,970円。初期費用はかかるものの、1mlあたり値段は約37円となり、20ccを使用してもかかる費用はわずか740円です。
ベルハンマーを使用したことで燃費は約1割向上し、乗り心地が改善できるうえ、わずかとはいえクラッチレバーも軽くなりました。
たったこれだけの出費でバイク全体の性能を引き上げられるため、ベルハンマーのコストパフォーマンスは非常に高いものといえるでしょう。
速度帯が低く、高速道路に乗れない原付なら、ほぼノーリスクで使用できると思われます。
これにて『LSベルハンマー 山中スペシャル』の効果検証レポートは終了です。次回はベルハンマーの可能性についての考察を述べる予定です。
『LSベルハンマー Yamanaka Special』効果検証レポート一覧
- 【ドライブトレインロス低減】編
- 【操作性改善】編
- 【乗り心地改善】編
- 【エンジン】編
↓ベルハンマーの原液を使うのであれば、先端が金属製で細いタイプの化粧品詰替え用注射器を使いましょう。細かな部分にも塗布しやすく、使用量の調整もよういです。
ダイソーなどの100円ショップでも販売されており、化粧品関係の売り場に置かれています。
↓『ベルハンマー山中スペシャル』の売り上げの一部は、山中選手のレース参戦資金になるそうです。ベルハンマー公式ショップでの定価購入がもっとも安価です。