古いバイクは、その設計の古さ故にブローバイガス還元装置周りの配管を見直すだけでパワーアップさせられます。
ブログ主が考案した『C2S2』は内圧コントロールバルブでも大気開放でもない、新しいブローバイチューニングです。
ノーマル車両に追加するだけで全回転域に渡ってエンジントルクのアップが体感できます。
目次
- シールド式ブローバイガス還元機構の欠点
- 古いバイク用の新しいブローバイガス還元装置『C2S2』とは?
- C2S2の特徴
- C2S2の構造
- C2S2のテストインプレッション
- C2S2の問題点
- C2S2のまとめ
シールド式ブローバイガス還元機構の欠点
ブローバイガスは、ピストンリングの隙間から漏れ出すガソリン燃焼ガスと、気化したエンジンオイルの混合ガスです。ブローバイガスが過剰になると、クランクケース内の圧力が上昇し、ピストンの動きが妨げられるためパワーダウンします。
そのため、エンジンにはブローバイガス還元装置が組み込まれ、エンジンから伸びたホースを通って吸気経路に戻し、再度燃焼させるようになっています。
近年のエンジンはワンウェイバルブに近い構造のPCVバルブを用いたクローズドループ式ブローバイガス還元装置を採用し、低回転域と高回転域でクランクケース内圧が最適になるように調整されています。
しかし、古いエンジンは単純にエンジンからスロットル手前までホースでつないだだけの簡易装置とも言えるシールド式を採用しています。
シールド式ブローバイガス還元装置を採用する単気筒エンジンのブローバイガスの流れを見ると、低・中回転域では、ピストンの上下動に合わせて配管内のガスが単周期で行ったり来たりしています。
空気には弾性があるため、このガスの動きはピストン運動とは同期せず、実際は少しづつしかブローバイガスは排出されていません。
そして、シールド式はスロットルを大きく開けて回転数が高まった状態でなくてはブローバイガスを吸い出すための負圧が確保できない欠点があります。
ブローバイガスは高回転になるほど多量に発生するため、シールド式でも機能上問題はありませんが、低中回転でのエンジン効率を落としています。
これらの問題を解決するためのカスタムとして、古くは『ブローバイガスの大気開放』、近年では『クランクケース内圧コントロールバルブ』がブローバイ排出経路のカスタムパーツとして出回っていますが、それらにも欠点があります。
クランクケース内圧コントロールバルブの欠点
ブローバイ内圧コントロールバルブは、ワンウェイバルブに似たパーツをブローバイ配管途中に配置することで、ブローバイホースをほぼ排出のみの一方向にのみ動作させるパーツです。
しかし、ブローバイ配管の抵抗を追加するのと同様であるため、絶対的なブローバイガスの排出量は低下します。
また、ブローバイ配管内のオイルと水が撹拌されて発生するマヨネーズ状の乳化物資がバルブに詰まるとブローバイガスを排出させることができなくなる欠点があります。
定期的に清掃をしなくては、バルブが詰まることで行き場を失ったブローバイガスがエンジンのシール部を突き破って漏れ出し、エンジン破損を引き起こす恐れがあります。
さらに、最適な内圧にコントロールするためには、エンジン排気量や気筒数にマッチしたものを選定する必要があります。
また、価格が高いのもデメリットです。安価なものでは数千円から販売されているものの、高価な製品では数万円のコントロールバルブも販売されています。
ブローバイ大気開放の欠点
クランクケースの内圧が高まると、エンジンピストンが降下する動きを妨げます。ブローバイガスを大気開放すると、クランクケース内の圧力は常に大気圧近くまで下がり、ピストンの動きを邪魔する力が小さくなるため、中回転域でのパワーやレスポンスがアップします。
また、燃えづらいブローバイガスを吸気経路に戻さず、燃調に影響を与えないため、緻密にセッティングされたサーキットマシンなどで多く用いられていたカスタムです。
しかし、吸気負圧による吸出し効果が得られないため、細いブリーザーホースでは高回転域で発生するブローバイガスを効率的に排出できません。
かといって、高回転域に合わせてホースの太さや長さを調整すると、どうしても低・中回転域のパワーが細ってしまうのも欠点です。
そして決定的な欠点は、汚染物質が含まれるブローバイガスを大気中に放出してしまうことです。ブローバイガスの大気開放は大気汚染に影響するほか、走行中の臭いや、エンジンにトラブルがあれば後方にオイルを撒き散らしてしまうことも問題です。
古いバイク用の新しいブローバイガス還元装置『C2S2』とは?
ブローバイの大気開放は環境への影響から論外として、クランクケース内圧コントロールバルブにもメリットとデメリットが共存します。
そこでEVシフト渦中のいまさらながら、新たに考え出したブローバイガス還元装置『クロスフロー型クランクケース掃気システム(Crossflow type Crankcase Scavenging System)』。略して『C2S2(シー・ツー・エス・ツー)』です。
シールド式ブローバイガス還元構造を採用する古い単気筒エンジンに追加するだけで、ほぼ全域に渡ってトルクが向上させられるブローバイガス還元装置が『C2S2』です。
C2S2は、ノーマルブローバイホースをそのまま使用するため、クランクケース内圧コントロールバルブのように、乳化物質が詰まってエンジンを壊す心配がありません。
C2S2の特徴
C2S2の最大の特徴は、エンジンクランクケースに独立した吸気口と排気口を設けてある点です。
排気口とは既存のブローバイホースを指します。吸気口としてオイルキャップに取付けたC2S2は、ゴミなどを取り除くフィルターとワンウェイバルブを組み込んでおり、吸気しかできないようになっています。
これの結果、ブローバイガスが一定方向に流れるようになり、より効率よくブローバイガスを抜き出すことができるようになります。
また、ピストンが上昇する際は吸気側から外気を導入することで負圧抵抗を低減し、ピストンが下降する際は、排気側にだけブローバイガスが排出されるため、負圧が弱い低回転域でも排出効率が高まります。
ブローバイ配管内の水滴の動きによってガスの流動を観察すると、ノーマルの状態よりも水滴が大きく動いていることが確認できます。ノーマル配管の水滴の動きが「3歩進んで2歩下がる」と例えるなら、C2S2装着時は「5歩進んで2歩下がる」ような動きに変わります。
そしてスロットルを開けていくと、吸気経路の負圧の高まりに合わせて、水滴が戻り動作なくスムーズにエンジン吸気側に流れて行きます。
吸気側のワンウェイバルブには、直接オイルとガスが通らないため、乳化物質はほとんど発生しません。そのため市販の『クランクケース内圧コントロールバルブ』のように頻繁な清掃も不要です。
バルブがブローバイガス排出の抵抗になることもないため、高回転までしっかりと回ります。
ただし、ワンウェイバルブで一方向に流れる構造であっても、アイドリング付近の極低回転域ではブローバイガスが吸気側から微量の排出される可能性があります。大気開放ほど致命的ではないものの、環境汚染の観点ではグレーと言わざるを得ません。
C2S2の構造
C2S2の構造は非常に単純であり、かかる費用は3〜4,000円程度です。用意するものは以下の通りです。
- 大気開放用ブリーザー取り出し口付オイルキャップ
- 大気開放用ブリーザーホースフィルター
- 普通のワンウェイバルブ(ブレーキフルードの交換などにつかわれるもの)
- 耐油ホース
C2S2は、これらの部品を組み合わせるだけです。ワンウェイバルブはエンジン側に向けます。逆にすると単なる大気開放になってしまいます。
また、バンクさせたときにエンジンオイルが漏れ出さないように吸気側ホースの吸気口は高い位置まで引っ張り上げて取付ける必要があります。
C2S2のテストインプレッション
テスト車両は50ccエンジンを搭載したホンダ エイプです。
アイドリング回転から6,000rpm付近まで、一回り厚くなったトルクをともなって軽快に加速するようになります。トルクが増加具合は、ドライブスプロケットをもう1段ハイギヤに上げようか検討できるほどです。
また、エンジンから雑音が消え、歯切れの良いエンジン音に変わります。加速時には単気筒の燃焼音が連続的に小気味よく響き、単気筒エンジンの魅力だけを抽出したようなエンジンフィーリングに変化します。
さらに、1サイクルあたりのピストンスピード変化少なくなるようで、エンジンの回転ムラが減少します。それにともないエンジン振動が減少し、スロットルオン・オフの反応が良くなるため、シフトアップ・シフトダウン時のペダルの引っかかりも軽減されます。
そのほか、エンジンブレーキの効きが弱くなるなど、これらの印象は『クランクケース内圧コントロールバルブ』を装着したときとほぼ同様です。
ただし、テストでは高回転域でのエンジンパワーやフィーリングにはほとんど変化が感じられませんでした。6,000rpm以上の高回転域ではノーマル以上の性能にはならないようです。もしくは、吸気側ワンウェイバルブの流量不足が原因かもしれません。
燃費性能は100kmを走行して、ほぼ据え置きの70km/L。ただし、終始強い向かい風でスロットルを大きめに開けていたため、加速や最高速、燃費データの正確性には欠けます。
排気量や使用回転数などに応じて排気側ブローバイ配管の太さ調整や、吸気側につけたワンウェイバルブの容量を増やすなどの調整を進めれば、さらに性能向上できるものと予想されます。
また、100km程度の走行では、スロットルバルブが極端に汚れることはありませんでした。また、エンジンオイルが目立って白濁していることもありません。
オイルセパレータに溜まる水の量には変化がありませんでしたが、溜まる乳化物質の量が増えていました。これはオイルミストの排出量が増えていることと、ガスの流れが変わっていることの証明になります。
C2S2の問題点
いいことずくめのようなC2S2ですが問題点もあります。ただし、これらを一個人で確認することは困難であるため、現状は放置するしかありません。懸念される問題点を列挙します。
- ケース内が常に外気にさらされるため、長期保管におけるエンジンオイルの酸化が懸念されます。その一方、クランクケースを強制的に換気するためエンジン稼働中の酸化はむしろ抑えられるかもしれません。
- 吸気側のフィルターも万全ではないことからエンジン内への微細なゴミの侵入によるダメージが懸念されます。
- ワンウェイバルブの内部バネなどが金属疲労で破損した場合、エンジン内に混入する恐れがあります。
- エンジン内の強制換気によってクランクケース内の滞留オイルミストが少なくなると思われます。そのため、オイルミストの潤滑作用に頼っている部分の内部異常摩耗が懸念されます。
- 排出側に乳化物質の発生量が増えます。オイルセパレーターおよびオイルキャッチタンクの定期的な清掃は必要です。
C2S2のまとめ
C2S2は、内圧コントロールバルブと大気開放を組み合わせたものです。その構造自体は、クローズドループ式ブローバイガス還元装置に似ています。
クローズドループ式は掃気をブローバイ排出側をPCVバルブで制御しているのに対し、C2S2は吸気側で制御しています。
C2S2は、古いシールド式還元装置を、疑似的なクローズドループにできるパーツと言っても差し支えありません。いわばこれは、大気開放型ならぬ『大気吸入型ブローバイガス還元装置』といえるでしょう。
ノーマル車両のブローバイホースを単純に太くすると、クランクケース内圧が下がることによってピストンリングからの吹き抜けが増えるため、エンジン始動や発進加速がしづらくなります。反対に細くすると中回転域でのパワーロスが顕著になります。
これに対し、C2S2は広い範囲にわたってトルク向上を果たします。ブローバイ排出経路はノーマルと同様であるため、高回転時でも効率的にブローバイが排出でき、もしワンウェイバルブが詰まってしまったとしてもノーマル状態に戻るだけで内圧コントロールバルブのようなトラブルは起こりません。
また、クランクケース内圧コントロールバルブのような頻繁な清掃やトラブルの不安がありません。C2S2を装着時のクランクケースはおおよそ大気圧より少し上ぐらいになっていると推測されます。
C2S2は部品さえ揃えば、どんなエンジンにでも取付けできます。なかでもクランクケースの容積変化がもっとも大きく、ブローバイの影響を受けやすい単気筒エンジンがベストマッチします。
ただし、C2S2の装着は多くのメリットがあるものの、環境問題や長期使用によるエンジンへのダメージは未確認です。テストは折を見て継続しますが、内圧コントロールバルブと同様に長期継続的な使用はエンジン故障のリスクが拭いきれません。
C2S2は、レギュレーションが許すなら競技での使用が最適と思われます。もし興味がありましたら、構造をご理解したうえで自己責任においてお試しください。
なお、部品ご購入の際は配管寸法などにご注意ください。
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