エンジンコンディショナーは分解せずとも燃焼室内に溜ったカーボン汚れを洗浄し、エンジンの調子を維持できる便利なケミカルアイテムです。
しかし、エンジンコンディショナーは強力な洗浄力を誇るがために、誤った使用方法ではエンジンの故障を引き起こす場合もあります。実際にエンジンコンディショナーを使う前に、正しい使い方と活用方法に加え、注意点を知っておきましょう。
目次
- 分解しなくともエンジン内部を洗浄できるエンジンコンディショナー
- エンジンコンディショナーの正しい使い方
- 【使い方1】ブローバイホースおよび吸気口から注入
- 【使い方2】プラグホールから噴射してピストンヘッドを直接洗浄
- 【使い方3】エンジンコンディショナーはキャブクリーナー代わりにもなる
- エンジンコンディショナーは低圧縮比エンジンのメンテナンスに最適
分解しなくともエンジン内部を洗浄できるエンジンコンディショナー
KUER(呉工業)やワコーズ(和光ケミカル)などから販売されているエンジンコンディショナーは、分解せずともエンジン内を洗浄できる便利なケミカルアイテムです。
その洗浄メカニズムは、エアインテークからエンジンコンディショナーを薬剤を注入し、エンジン燃焼室についたカーボンを溶かして落とすというものです。汚れは排気ガスとともにマフラーから排出されるため、本来除去困難な吸排気周りと燃焼室内の汚れを手軽に落とすことができます。
しかし便利な反面、強力な洗浄力を誇るがために使い方を誤るとエンジンを壊してしまう恐れがあるため、その特性をしっかりと理解してから使う必要があります。
エンジンコンディショナーは正規の使用方法を加えて3つの使い方ができます。
- 【使い方1】正規の使用方法
- 【使い方2】プラグホールから直接噴射してピストンヘッドを直接洗浄※非正規
- 【使い方3】パーツクリーナーの代用※非正規
ただし正規以外の使用方法で使う場合は、リスクをしっかりと理解し、自己責任で作業を行ってください。まずはエンジンコンディショナーの正規の使い方と効果、注意点を理解しておきましょう。
エンジンコンディショナーの正しい使い方
エンジンコンディショナーの使用方法は、暖機ができている状態でインテーク側からスプレーして薬液を燃焼室内に注入するだけです。マフラーから白煙が出なくなったら洗浄完了となります。
ただし、エンジンの状態によっては白煙が出ない場合もあります。
エンジンコンディショナー注入中は燃焼が不安定になり、エンジンの回転数が下がったり異音や振動が起こりますが、これは正常です。その際にかかるエンジンへの負担を軽減するためにも事前の十分な暖機運転は絶対事項です。
【使い方1】ブローバイホースおよび吸気口から注入
吸気系にあるブローバイホース等からエンジン内に注入するのがエンジンコンディショナーの正規の使い方です。
自動車に比べて排気量が小さいバイクは、ブローバイホースから注入しても流速が遅く、薬液が上手く吸入されていかない場合があります。
そういった場合はパイピングを外し、キャブレターやスロットルバルブの入り口から直接噴射してやりましょう。
いずれの場合でも、必ずエアクリーナーエレメントの下流から吹き入れることが大切です。
しっかりと燃焼室内に薬液が吸入されると、スロットルを開けてを吹かし気味にしなければエンジンが止まりそうになるため、断続的にスロットルを開けてエンジン回転数を高めてやりましょう。
エンジン回転数が下がりきったところで、独特の臭いをともなった白煙がマフラーから吹き出します。この白煙が内部が洗浄されているバロメーターとなります。
ただし、洗浄液は圧縮できないため、エンジン内部は一時的に圧縮が上昇します。カタガタと低速ノックを起こすのはエンジンにとって良い状態とはいえません。
エンジンの異常圧縮は、エンジン自体の破損を招く恐れがあるため、直噴エンジンや高性能エンジンなどの高圧縮比エンジンには使わない方がよいでしょう。
説明書どおりの「2000cc以下のエンジンは30秒間スプレーする」方法で作業をすると、それ以下のバイクのエンジンではどれほどスロットルを開けようが、確実にエンジンが止まります。
軽自動車やバイク、原付など排気量が小さなエンジンに使用する際は少量づつ、エンジン回転数を調整しながら断続的に吹き入れるのがよいでしょう。
軽度のカーボン噛みによるエンジンの始動不良ならこれだけで直ります。
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正規の使い方での効果レビュー
自動車でも効果が体感できるように、50ccエンジンを搭載した原付のホンダ エイプでもエンジンコンディショナーの効果を体感できました。使用後は回転上昇が滑らかになったように感じられます。
それまで4,000rpm以上は苦しげに回っていた中古エンジンが、使用後は4,500rpmまで軽やかに回るようになりました。
もうひとつ注意したいのは薬液の臭いです。作業が終わっても排気ガスからはエンジンコンディショナー特有の臭いがしばらくは消えません。服にも臭いがつくため、作業着に着替えて施工することをおすすめします。
【使い方2】プラグホールから噴射してピストンヘッドを直接洗浄
強力な洗浄力を発揮するエンジンコンディショナーを停止状態の燃焼室にエンジンに直接吹き入れ、カーボンを確実に落とす方法がプラグボールからの直接噴射です。
正規の使用方法でエンジン内部を洗浄した直後にも関わらず、プラグホールからエンジンの内部を覗き込んでみると、ピストンヘッドにはザラついたカーボンの堆積物がびっしりと付着しています。
やはり正規の使い方ではエンジン内部の汚れを完全に落とことはできないようです。
カーボンの堆積が過剰になると、ピストンリングやバルブのシール面にまで噛み込み、十分な圧縮が確保できずにパワーダウンや始動不良を引き起こす場合もあります。
燃焼室の頑固なカーボンは、プラグホールから直接エンジンコンディショナーを吹き込んでやることで効率的に除去することができます。
ただし、この方法はメーカーが推奨しない非正規の使用方法であることを、しっかりと認識しておきましょう。
プラグホールから注入の作業手順
ピストンを上死点付近の位置に移動させて燃焼室の容積を小さくしておくことで、吹き入れる薬液の量が節約できます。
プラグホールからエンジンコンディショナーを吹き入れると、すぐに溶けたカーボンで茶色く染まった泡が噴き出してきます。この状態で数時間程ほど放置するとピストンヘッドのカーボン汚れが溶け落ちます。
ピストンヘッドや薬液の汚れ具合を確認しながら、この作業を繰り返しましょう。
ピストンヘッドの汚れが完全に除去できるまで繰り返したいところですが、この方法であってもカーボン汚れの完全除去はできません。完全に除去するためにはエンジンの分解清掃が必要となります。
それでも、直接洗浄後にプラグホールから燃焼室を覗き込むとピストンヘッドのシルバーの地肌が見えるほどにまでキレイになっていることは確認できました。正規の使い方よりも効率的に燃焼室の洗浄ができることは間違いありません。
《注意点1》ウォーターハンマーとドライスタート対策を!
燃焼室内に薬液が残っていると、始動不良や異常圧縮によってエンジン破損させる恐れがあります。これを「ウォーターハンマー現象」といいます。
これを防ぐためには、スパークプラグを装着する前にクランキングしてピストンヘッドに残った薬液を確実に排出しておくことが大切です。
また、エンジンコンディショナーを燃焼室に吹き入れると、シリンダー壁の油膜も洗い落としてしまうため、そのままエンジンを始動すると、いわゆる「ドライスタート」となりピストンリングの摩耗を促進させてしまいます。
万全を期すなら、エンジン始動前にシリンダー壁面にエンジンオイルやスーパーゾイルスプレーなどの液体潤滑剤を噴霧するなどし、それができなければスパークプラグが外れた状態でキックペダルを蹴って長めにクランキングし、エンジンを始動させる前にシリンダー内壁にオイルを供給してやるようにしましょう。
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《注意点2》プラグホールから噴射したら必ずエンジンオイルを交換
泡状のエンジンコンディショナーは、吹き付けるとカーボンを溶かしながら液体に変化し、ピストンリングの隙間を流れ落ちてエンジンオイルに混ざりこみます。
前述したようにエンジンコンディショナーは強い油分除去性能があるため、混ざり込んだ薬液の濃度によってはエンジンオイルの潤滑性能が低下し、エンジンの焼き付きを誘発する恐れがあります。
また、樹脂に対しても強い攻撃性があるため、エンジン内部のゴムシールや樹脂コーティングへのダメージも避けられません。
とくにプラグホールからの直接噴射した場合は、ピストンリングの隙間から大量の薬液がエンジンオイルに混ざり込みオイルの著しい劣化を招きます。作業後は、必ずエンジンを始動する前に必ずエンジンオイルを交換するようにしてください。
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プラグホールから直接噴射の効果レビュー
吸気口からの注入しての洗浄の直後であるのにも関わらず、5,000rpmまで楽に回るようになりました。エンジンオイル交換による影響を加味しても、エンジン音が静かになり4,500rpmで巡航できるほどまでに状態が改善されています。
シリンダー内にカーボンが堆積した状態のエンジンは、燃焼温度が上がると堆積したカーボンに着火し異常燃焼が発生してしまうノッキング(デトネーション)やランオンを起こす恐れもあります。
燃焼室内のカーボンを除去することは、エンジン性能回復はもちろんですが、ランオン防やデトネーションによるエンジンブロー抑制などの予防整備としての意味合いが強くなります。
【使い方3】エンジンコンディショナーはキャブクリーナー代わりにもなる
エンジンコンディショナーは、その強力な洗浄力で強力なパーツクリーナーとしても機能します。
薬液自体が揮発しづらいためキャブレターの漬け洗いやスロットルバルブ、インタークーラー内の洗浄などにも使いやすく、パーツクリーナーやキャブクリーナーよりも効果的にカーボン汚れを落とせます。
エンジンコンディショナーは低圧縮比エンジンのメンテナンスに最適
繰り返しになりますが、フラグホールから吹き入れる上記の使い方はエンジンコンディショナーの正しい使い方ではありません。洗浄作業をしたことで、剥がれ落ちたカーボンの塊がバルブシールを傷つけたり、触媒を詰まらせるなどのトラブルが起こる恐れがあります。
また多気筒エンジンの場合は、バルブを洗浄したことで気筒間の吸排気バランスが崩れ、回転フィールが悪化する懸念もあります。
それに加え、高圧縮比のスポーツエンジンやディーゼルエンジン、直噴エンジンはトラブル防止のため、用法を問わずエンジンコンディショナー自体を使用しないほうがよいでしょう。これらの事項は取扱説明にも記載されています。
上記以外のエンジンでも、近年のエンジンは総じて高圧縮比に設計されています。エンジンコンディショナーの高い洗浄力は魅力的であるものの、使い方を間違えるとエンジンを壊す危険があることは心得ておきましょう。
エンジンコンディショナーは、比較的低圧縮であり燃焼が不安定でカーボンの付着量がどうしても多くなるキャブレターエンジンに最適な燃焼室内部のクリーニング方法です。
近年の高圧縮比のエンジンにはエンジンには、プラグホールからの直接噴射の方がエンジンへの負担は少ないと言えるでしょう。
エンジンコンディショナーを使う際は、その特性とメリット・デメリットをしっかり理解したうえで、くれぐれも自己責任での作業をお願いいたします。
以上のように、エンジンコンディショナーは手元に1本あると何かと便利に使えます。
ワコーズの方が洗浄力が高いとの噂ですが、劇的な違いは感じられません。ブラシなどでカーボンをこすり落とすならどちらを選んでも問題はありません。大量に使うなら、ワコーズの半額ほどで購入できるKUREがおすすめです。
↓カーボン汚れがエンジン性能に直結するのは、ピストンの汚れよりもむしろ吸排気バルブの方です。カーボン噛みによるエンジン始動不良等を改善したいなら、プラグホールからではなく、吸排気ポートから直接エンジンコンディショナーを吹き入れる方法が効果的です。
以下の記事では、プラグホールからの注入では落としづらいエンジンバルブの洗浄方法を解説しています。
↓手軽にエンジン内部を洗浄するなら燃料添加洗浄剤がおすすめです。使い方は一定量を燃料に入れるだけ。ワコーズ・フューエルワンやAZ・FCR-062は信頼と実績のある燃料添加洗浄剤です。
↓燃費やエンジンフィーリングの改善が目的であれば、ベルハンマーやスーパーゾイルのような金属表面改質潤滑剤が自信をもっておすすめできます。