エイプ50に取り付けた強化イグニッションコイルの性能を最大限に活かすため、一時期話題になったブリスクプラグへと交換します。たかがスパークプラグ1本でここまで違いがでるとは思いもしませんでした。
ブリスク・スパークプラグとは
ブリスクスパークプラグは、チェコ共和国に本拠を置く自動車部品メーカー「ブリスク」が製造するスパークプラグです。
ブリスクが製造するスパークプラグは、一般的なL字型接地電極スパークプラグとは異なる電極形状が特徴。
360°に向けて点火できる構造や、3mmものプラグギャップを設定する設計は、性能向上を狙ったものであり、一般的な使用を想定していないためレース用部品として販売されています。
ブリスクプラグは、ハイパフォーマンススパークプラグとして3種類のプラグが入手可能です。
LGS
LSGは、4つの接地電極が特徴的なスパークプラグです。形状自体は別段珍しいものではありませんが、ブリスクLGSの最大の特徴は標準で3mmほどに設定された広いプラグギャップです。
プラグギャップを広げたぶんだけ大きな放電が発生するため、火炎核が広がりやすく燃焼効率を向上させることができます。
ただし、通常スパークプラグの3倍ほどもあるLSGの広いプラグギャップ間を放電させるには、相応の強力な点火システムが必要。点火性能が不十分では性能アップどころか失火を起こしてしまう変態プラグがLSGです。
LGSの名称は、ランボルギーニ・スタイル」の略称。ランボルギーニのV12エンジンのために、ランボルギーニ社と共同で開発された高性能プラグがLSGです。
LSGはブリスクのなかで、ホンダ モンキー・カブ・XR50/100など小型バイクに適合するM10×リーチ12.7mm(ネジ径×ネジ長さ)がラインナップしている唯一のプラグです。
マルチスパーク
碍子の周囲360°に小型の接地電極を設け、全周囲への点火を可能にしたスパークプラグです。同時多発的に点火するため、瞬間的に多くの燃料に着火することで燃焼効率の改善を図ります。
東亜システムクリエイトが20年ほど前から同様のスパークプラグを「360°マルチスパークプラグ」として販売してますが、その事業規模から推測するに、東亜システムクリエイトの「360°マルチスパークプラグ」は、ブリスク・マルチスパークのOEM品ではないかと思われます。
マルチスパークは、M10×リーチ19mmからしかサイズラインナップがないため、エイプなどの小型バイクには使用不可です。
しかし、東亜システムクリエイトからリーチを12.7mmに調整する「Cタイプアダプター」が販売されているため、それを使えば装着可能です。
プレミアムエボ
マルチスパークとLGSを組み合わせた形状が特徴であり、両方の性質をもつブリスクの最高級品です。しかし、M10のラインナップがないため小型バイクには装着できません。
エイプ50にブリスクLSGを装着
接地電極が中心電極から離れるほど大きな放電が起こせるようになるものの、より多くの電圧が必要になります。
この電圧を要求電圧といい、それ相応の電圧を発生させられる点火システムが必要になります。
ブリスクの3種のプラグの要求電圧は、LGS>プレミアムエボ>マルチスパークの順番に設定されており、今回装着するのは、もっとも要求電圧が大きなLGS。
ウオタニ SP-2相当のイグニッションコイルを装着したエイプ50に、ブリスクLSGを装着して性能を試します。
適合するプラグの品番は NAOR12LGS M10×リーチ12.7mm×16mm(ネジ径×ネジ長さ×レンチ径)。熱価はNGK換算で7~9に相当するマルチグレードです。
購入はブリスク正規輸入代理店のレースクラフターズさんのヤフオクで購入しました。
ノーマルプラグとブリスクプラグを比較
一般的な多極プラグと異なり、ブリスクLGSは中心電極よりも離れた低い位置に接地電極が設けられているため、障害物に邪魔されることなく混合気に着火できる設計です。
おまけに、突き出し量がノーマルプラグの接地電極先端まで伸びているため、よりシリンダーの中央に近い箇所で効率のよい点火が可能。
プラグが斜め横に配置される2バルブエンジンでは燃焼効率の改善に有効です。
また副次効果として、突き出し量が増えることで圧縮比がわずかに上がり、実質的な点火時期もわずかに早まることが期待できます。
ただし、取り付けにあたって懸念されるのは、ノーマルより冷え型プラグになることによるカブリ症状と、独特な電極形状です。
エイプのノーマルプラグ番手は6番であるのに対し、ブリスクLGSは7〜9番に相当します。
圧縮比がほんのわずかに上がるとはいうものの、スパークプラグのカブらないか心配です。7番が標準の100ccのエンジンなら問題なく使用できるでしょう。
もう1つの心配は、中心電極が破損して外れた場合、ストッパーとなる接地電極がないため、即エンジンブローに繋がるということです。この点は、レース用部品として妥協するしかありません。
インプレッション
16Tのドライブスプロケットに交換してから発進しづらいのは相変わらずですが、ラフにクラッチをつないでもエンストしそうな気配がなくなりました。アイドリング付近からトルクに粘りがでています。
そのままスロットルを開けていくと、緩やかにトルクが立ち上がり、ふわっと前に出る感覚です。加速が鋭くなったというよりは、微妙なスロットル操作に対して忠実にトルクを返してくれるようになりました。
最高速は強風のため未計測ですが、ほとんど変化はないと思われます。
シートとハンドルから伝わる微振動が減ったため、手のしびれは軽減されそうです。その代わり爆発力が明らかに強くなっており、クッキリとした輪郭の爆発波が、突き上げとして身体に伝わってきます。
排気音はやや硬質な発破音に変化しました。そして、明らかにうるさくなっています。
始動性も向上した模様です。温間始動時にはキックペダルを踏み切る前にエンジンが始動します。
低速走行後にプラグチェックをしましたが、熱価6番と同じような状態。冷え型でも、大きな問題にはならないようです。微低速走行を続けてもカブることはありませんでした。
ブリスクスパークプラグのまとめ
ブリスクLGSの価格は、イリジウムプラグよりもさらに高い2,000円強と非常に高価なスパークプラグです。しかし、単気筒エンジンなら1本だけの購入で済みます。
また、プラグ周りをチューンをするにしても、プラグの向きを変えるシム(約2,000円)の購入や、プラグギャップを過度に広げる加工の手間とリスクと比較をすれば、ブリスクプラグのほうがコストパフォーマンスは高いといえます。
万人におすすめできるスパークプラグではありませんが、ブリスクプラグは非常におもしろいスパークプラグです。ただし、装着の際は点火系の強化をお忘れなきよう。
↓エイプの点火系を強化した記録です。
↓スパークプラグやイグニッションコイルの性能を引き出すには、配線のメンテナンスも重要です。シートを外したタイミングでやっておきたい端子磨きの方法を解説しています。
↓以下の記事では、純正スパークプラグ規格をはじめ、締付けトルクなどのメンテナンスデータをまとめています。備忘録としてご活用ください。