設計で想定しない回転域の使用は確実にエンジンを壊します。また高回転だけでなく、低回転域を多用し続けるのもエンジンの寿命を縮めます。個々のエンジンには、もっとも強い力を発生させられる回転数が設定されており、この回転領域を維持して走らせるのが、エンジンに優しく、楽しく、快適なバイクの走らせ方です。
過回転はエンジンを壊す
エンジンには回転上限が設定されており、回転上限手前のレッドゾーンを超えるような過回転は当然エンジンにダメージを与えます。とくにエンジンシミュレーションが十分ではない古いエンジンでは部分的に強度不足の箇所があります、また、多くの部品が組み合わせでできているエンジンは、全ての箇所が均一に劣化するわけではありません。
回転数が高まるほどエンジン内の各部には大きな力が加わるため、過回転ともなれば、設計上の強度が不足している箇所から先に壊れやすくなります。そのため回転数は低く保つほうがエンジンには優しいといえます。
低すぎる回転数も問題
一方、低すぎる回転数もエンジンの劣化を促進させます。エンジンオイルの潤滑性能を最大限に発揮するには、摺動部にある程度の速度が必要です。カムシャフト山などは低い回転数ほど摩耗しやすい傾向にあります。
また、エンジントルクに対して過剰な負荷が加わると、本来上下動するはずのピストンが横方向に逃げようとするため、ピストンリングやシンダー内壁が摩耗しやすくなります。
走行抵抗が極端に高まる急な上り坂の走行や、適切でないギアの選択による低速ノックなどがエンジンの過負荷にあたります。ガタガタと振動を起こしたり、エンジンをストールさせたりするのはエンジンによいとは言えません。
急斜面を登る際は、低いギアで、最大トルク発生回転数を保つのがもっともエンジンへの負担が少ない走らせ方です。ただし、エンジン冷却を車速に依存する空冷エンジンは、オーバーヒートによるダメージにも注意したいところです。
適切な範囲を使う
レシプロエンジンは、基本特性として極低速回転と超高速回転が苦手です。そして、エンジンにとって苦手な回転域では振動が大きくなる傾向にあります。振動が発生するということはエネルギーをロスしていることと同義です。また、その発生振動により内部部品が破損する恐れもあります。
レシプロエンジンが得意なのは中回転域であり、変速機を活用してより大きなトルクを発揮できる回転域を使うのが正しいレシプロエンジンの扱い方です。メーカーによるエンジンチューニングやオーナーによる吸排気のカスタムによって回転域やトルク値は変わるものの、これはおおよそカタログに記載される最大トルク発生回転数前後になります。
最大トルク発生回転数とは
最大トルク発生回転数とは、エンジンがもっと大きなトルクを発生させられる回転数。言い換えれば、エンジン内部抵抗の総和がより小さく、エンジン充填効率がより高い回転数が最大トルク発生回転数です。
最大トルク発生回転数を保って走行するのがもっともエンジンにダメージが少なく、もっともパワフルで燃費性能にも優れた走り方といえるでしょう。
実走行時の最大トルク発生回転数は変動する
カタログに記載された最大トルク発生回転数は、あくまでアクセル全開時の数値です。実際の最大トルクは、吸排気管の内径と長さで変動するため、ハーフスロットル時の最大トルク発生回転数および発生トルク値は、スロットル開度に応じてカタログに記載された値よりも低くなります。
低速ノックを起こさないように十分に加速できるアクセル開度を保ちつつ、カタログに記載された最大トルク発生回転数よりも少し下を維持して走るのがもっともエンジンに優しい走り方となります。
具体的な回転数はバイクによって異なりますが、これはおおよそ、もっとも不快な振動が少ない回転領域です。
記事のまとめ
振動が少なく心地よいと感じる回転数がもっとも効率がよく、エンジンに優しい回転領域であり、人間は無意識にそのアクセル開度に調整しているものです。これはバイクだけでなく自動車でも同じです。
エンジンがより効率よく稼働できる回転域を『トルクバンド』と言います。トルクバンド内の回転域は、ある程度スロットルを開いた状態でポンピングロスが少なく、燃費性能も良好です。巡航時はその回転数を一定に保つために、一定速度で走行するのがもっともエンジンを長持ちさせる使い方です。
また、トルクバンドを維持した走り方はコーナリングにも影響します。傾けたバイクを起き上がらせるのはトラクションであり、トルクバンドを外しているとスロットルを開けても十分な加速ができないためバイクの総合的な運動性能を犠牲にします。
適切なギアを選択し、不快な振動が出る回転領域は使わないこと。エンジントルクに対して余力がある領域だけを使うこと。それ以外の回転域は極力使わないようにするのがもっともエンジンに優しく、楽しく、快適なバイクの乗り方と言えるでしょう。