フロントフォークのオーバーホールをしました。私のエイプには購入時からai-NET(アイネット)の格安中国製フロントフォーク・ディスクブレーキキットが付いています。
いくら安くとも、オーバーホールして継続使用できなれば安物買いの銭失いです。この激安中華フロントフォークをオーバーホールするための方法・手順を解説します。
ai-NET(アイネット)フロントフォークキットとは


ai-NET(アイネット)のフロントフォークは、新品価格3万5,000円程度(2021年4月現在)で買えるハイコストパフォーマンスのディスクブレーキ化フロントフォークキットです。
アルミ無垢材から削り出されたステムと、純正よりも太いアウターフォークはエイプのフロント周りにボリューム感を追加し、金色に塗装されたブレーキキャリパーのディスクブレーキの性能も十分。
このキットを購入するだけでフロント周りのチューンナップとドレスアップがほぼ完結します。
概要だけを見れば非常に魅力的なフォークキットですが、細部を見ればやはり中華クオリティ。
電食を考慮されておらず錆びやすい素材の組み合わせや、精度の低いベアリング・各部寸法、品質の悪いシール類をはじめ、出荷状態ではベアリングのグリス不足、フォークオイル不足、アウターフォーク下部のロックボルトに銅ワッシャーが入っていないなどコストダウンの跡が目立ちます。
それでもこのフォークは一般使用には必要十分です。そのほか気になるのは耐久性。つまり、オーバーホールして継続使用ができるかどうかです。
幸いなことに、フロントフォークのオーバーホール時に必要なシール類は純正と同サイズです。細部の違いはあるものの、インナーフォーク径など基本寸法や構造は純正フォークのコピー品と言えるほど似通っているため、純正フォークと同様にオーバーホールができます。
オーバーホール作業
オーバーホールに必要な保守部品や手順は純正フォークと同様です。油面などのセッティングデータも純正を参考にできます。
必要なもの
- 純正規格ダストシール(純正品番:91254-GAA-003)
- 純正規格オイルシール(純正品番:51490-GAA-305)
- 銅ワッシャ(M8×13.7×1.0t)
- ネジロック剤
- フォークオイル(純正粘度:G10)
あると便利な工具
- 万力もしくはモンキーレンチ
- オイルシール抜くための、小さなタイヤレバーか大きなマイナスドライバー
エイプ純正フォークのノーマルセッティングデータ
純正フォーク項目 |
規格 |
オイル粘度 |
G10 |
オイル量 |
174cc±2.5c |
油面高 |
131mm |
オーバーホール手順
- フロントフォークを外す
- トップボルトを外してオイルを抜く
- アウターフォーク下部のロックボルトを外す
- 分解
- ダストシールを外す
- オイルシールロックピンとオイルシールを外す
- 各部洗浄
- オイルシールを圧入
- インナーフォーク組み付け
- アウターフォーク下部のロックボルトに銅ワッシャとネジロックを付けて締める
- オイル注入(174cc±2.5cc)・圧縮状態で油面調整(純正131mm)
- 伸縮させてオイルエア抜き
- インナースプリング・カラー挿入
- トップボルト取り付け・オイル漏れ確認
- ダストシール取り付け
オーバーホール時の注意点と作業ポイント
各部ボルトの脱着時
- トップボルトは大きなトルクで締まっているため、緩め・本締めはバイクに取り付けた状態で行なうのがベターです。
- アウターフォーク下部のロックボルトを外すには長めの6角レンチが必要です。L字レンチでは力がかけづらいうえ、棒状フォークは固定もしづらいため、万力などの専用設備がなければ、画像のように大きめのモンキーレンチとL字レンチをエクステンション代わりののなにかで延長することと効率よく力がかけられます。
- アウターフォーク下部のロックボルトを取り付ける際は、インナーフォークを引っ張りながら締め付けると、内部のシートパイプが供回りするのを防げます。
オイルシールの脱着時
- オイルシール脱着には大きな力が必要。KURE CRC5-56(浸透潤滑剤)と小さめのタイヤレバーをテコのように使ってようやく外れました。オイル漏れの原因になるため内壁を傷つけないように注意。テコの支点部でアウターフォークを傷つけないようにあて布などを使いましょう。
- オイルシールは、インナーフォークを組み付けてからではオイルシールと同径の肉厚パイプなどが必要なため、組み付け前に圧入したほうが楽だと思います。また、オイルシールを叩き入れる際は、古いオイルシールを重ねてシールを傷つけたり変形させないように注意。フォークと全周にわたって平行に付いているか要確認。
オーバーホール作業総括
事前にシール寸法を実測したもののの、果たして純正シールが使えるかどうか不安であったため、安価な中国製シールを使いました。中国製シールはゴムの品質は純正品に劣るものの、純正品の1/3程度の価格で購入できます。
アウターフォーク下部のロックボルトに付くオイルシーリングのための銅ワッシャは、取り付け直前で発注ミスによるサイズ間違いに気づき取り付けできませんでした。とはいうものの、アイネットのフォークには銅ワッシャが標準で付いていません。
2年以上使用した実績と、現状オイル漏れもないためネジロック・銅ワッシャなしで組み付けました。
オイルが滲んでいた左フォークのオイルは新品に近い赤色をしていたのに対し、異常がなかった右フォークの方が水分混入によってオイルが完全に白濁していました。左はオイルシールの着脱が非常に困難でしたが、右は比較的楽に着脱できたため、左右アウターフォークの寸法に大きな差があるものと推測します。
また、出荷状態で使われている中国製のゴムシールのわずかな寸法誤差や品質、もしくは前オーナーが取り付けた手製のフロントフェンダーステーがフォークに余計なテンションをかけてシールがしっかり機能していなかったのかもしれません。
はたまた、ひび割れていたダストシールから左側だけ雨水が混入したのかもしれません。様々な原因が考えられるものの、その答えは次回のオイル交換時にハッキリするでしょう。
インプレッション
オーバーホール前は乗り心地の大きな悪化は感じなかったものの、ハンドルをもってフォークを縮めると左右で動きが違うのには気づいていました。
オーバーホール後は「バイクが落ち着いた」という表現がピッタリなほど、ダンピングが効くようになりました。もちろん乗り心地も向上しています。
これまで、状況は不特定ながら大きくバンクして曲がる際に、一瞬車体がグラリと不安定になるときがありました。それはフロントフォークの片側のオイルが劣化し、ダンピングが効いていないせいだったかもしれません。
中華フロントフォークキットまとめ
フロントフォークに限らず、中国製品はハードウェアや価格は魅力的ながら、細部の寸法精度や材質品質が国産に劣ります。
アイネットのフロントフォークキットも例に漏れず品質の悪さが目立ちますが、致命的な欠陥はありません。ただし、ちゃんと使うにはそのまま使わず、新品購入時点でオーバーホールが必須です。
各部寸法誤差はどうしようもありませんが、純正部品を使えるコピー品であるのは大きなメリット。シール類を純正品に交換すれば中国製品であっても耐久性・信頼性を大きく向上させて使うことができるでしょう。
キットのブレーキシステムの保守部品や、その他アクスルカラーなどの寸法は未確認ですが、フォークと同じように純正品もしくは汎用品が使えるように設計されていると思われます。
アイネットのフロントフォークは安価で手が出しやすいパーツである反面、バイクに合わせた微調整が前提のやや整備慣れした方向けの商品です。
オーバーホールに必要な物品
ホンダ純正のフォークオイルシールは、ネット通販だとやや希少かつ価格高騰気味です。ホンダの部品販売で購入しようとしたのですが、取り寄せでも2輪用部品は扱っていないらしく、バイク屋に発注してくれと言われました。
安価な中国製シールゴムの品質はお世辞にもよくありませんが、1〜2年持ってくれれば十分です。
↓中国製。1台ぶん999円(2021年4月現在)。形状は純正同様ながら片方だけバリが目立つ。
↓オイル漏れを防ぐため、本来は銅ワッシャとネジロックが必要です(※発注ミスで使いませんでしたが)
↓フォークオイルは1Lあれば左右オーバーホールが2回できます。純正粘度はG10。なぜかヤマハを使いました。
↓乗り心地改善にはスイングアームのグリスアップの方が大きく影響します。
↓ディスクブレーキを搭載するアイネットのフロントフォークのブレーキフルードを交換した際の記録です。
↓同時にフロントフォークへのスラストベアリング組み込みをおすすめします。乗り心地改善に効果的。さらに費用対効果抜群です。