「バイクは乗り手を選ぶ」ということが、原付バイクに2年間乗ってわかりました。
「楽しそう」「維持費が安い」という理由だけでバイクに乗り続けるのは大変です。「バイク維持の実際のところ」を含めたメリットとデメリットを解説します。
目次
原付のメリット
機能美すら感じる「いさぎよさ」
車体が小さな原付には無駄なものが一切がありません。備わるのは、移動できる最低限の機能と最低限のパワーのみ。
エイプ50にはエンジンシリンダーは一つしか備わっておらず、燃料供給は時代の流れに逆行するキャブレター。そのいさぎよさには機能美すら感じられます。
圧倒的な維持費の安さ
原付は安価な維持費が特徴です。年間維持費は、軽自動車税種別割・自賠責保険料・任意保険料を合わせても約2万5,000円+燃料代で済みます。
車両の維持費は、軽自動車であっても車検代などを含めると、1年あたりの維持費は最低でも約6万円+燃料代がかかります。普通車ではそれ以上です。
エイプ50の燃費は50km/Lを切ることはなく、燃料代も破格です。1回あたりの燃料代はタンクを満タンにしても5〜600円程度。
これだけで250km以上の距離を走れます。絶対的な移動コストでは電動バイクには劣るものの、航続距離の長さを含めたトータルコストパフォーマンスでは原付一種がピカイチです。
すべて自分でメンテナンスができる
構造が単純かつ軽量な原付バイクの整備は特別な設備を用意することなく、ちょっとした知識さえあればすべて自分の手でメンテナンスができます。
古いバイクなら、修理不可能な精密部品は数えるほどしか使われていないため、壊れても修理費用は安価に収まります。
定期交換が必要なエンジンオイルはたったの1L、スパークプラグも1本で済むため、メンテナンス費用も破格です。また、車体が軽くアンダーパワーであるため、ちょっとした手入れでも調子の変化がハッキリと感じられます。
原付の移動はアクティビティ
風を受けて走るのは、移動していることを実感せずにはいられません。また、車以上にエンジンの存在を感じさせられるため、内燃機関好きにとってはちょっとした移動ですら悦に浸れる心地よい時間です。
振動が大きいものの、単気筒ならではの鼓動感はエンジンそのものの魅力が凝縮されたような味わい深いフィーリングです。
スピードが出ないため、どこでもスロットルを全開にでき、安全にスポーツ走行に近い操舵感が味わえるのも50ccスポーツバイクならではの魅力です。
昔を思い出すドキドキ感
原付を整備していると、自動車運転免許を取得してから車に夢中になっていた昔を思い出します。
20代の頃は本やら雑誌やらを読みあさりながら、ひたすら車の構造や運転技術を頭と身体に叩き込むのが趣味でした。
車で楽しむことにも飽きつつあった昨今、それまで一切興味がなかったバイクに乗ったことで、当時感じていた「未知な物事を触れる感覚」や「新しい世界を知る興奮」が蘇ります。
今はバイクに関する知識に触れるのが楽しくてたまりません。
原付のデメリット
暑い・寒い・紫外線
外界に身をさらして乘るバイクは外界の環境に大きく影響されます。30km/h走行であっても、走行中の体感温度は驚くほど下がるため、日中に軽装で出かけようものなら、夜には寒くてバイクに乗って帰るのが苦痛になります。
また、紫外線もバイクを乘るうえでの天敵。一般衣類でバイクに乘ると紫外線によってシワに沿って退色が起こり、大切な服がうっすらゼブラ模様になります。
バイクに乘るには、紫外線に強い繊維や、幅広い温度に対応できるバイク専用の衣類や装備が必須です。また、こういった装備品を整えるのにも意外なほど費用がかかります。
メンテナンスに気を遣う
思った以上にバイクの車体は劣化しやすく、車体サビやエンジンの燃焼状態、各部品の劣化などが非常に気になります。自分で整備ができるぶん、車以上に状態管理に気を遣います。
とは言っても、エンジンオイルさえ定期的に交換しておけば、ズボラに乗ったとしても壊れることはないでしょう。壊れる部品がないという方が正確です。
ただし、各部の絶対的強度は劣るため、常軌を逸した高負荷運転はエンジンをはじめとするバイクの寿命を著しく縮めると思われます。
積載量は皆無
原付にはほとんど荷物が載せらないため、ほぼ移動しかできません。
小さいながらラゲッジスペースが備わるスーパーカブやスクーターならまだマシだろうと思いますが、買い物の足としてつかうなら、カスタムや工夫が必須。重量変化による運動特性に変化にも気を使います。
スーパーマーケットへ買い物に行く1〜2km程度の移動ならば、原付に乘るより手に持って歩いたほうが、実のところ積載量が多いうえに快適です。
制限速度が25km/hに制限されるものの、リアカー(トレーラー)を牽引することで原付であっても大幅に積載量をアップさせることができます。
30km/hの速度制限
排気量50cc以下の原付一種の法定速度は30km/hと定められています。対して、それ以外の乗り物の法定速度は60km/hであるため、単純に移動時間が2倍に増えます。
また、原付対他車の大きな速度差は非常に危険です。
私の場合は、危険回避のために車通りの多い幹線道路は極力通らないようにしているため、移動距離はさらに1.5倍ほどに増えます。
つまり私が原付で移動する場合、合計で車で移動する約3倍の時間がかかります。
とはいえ、個人的には原付の30km/h制限はそれほど苦痛には感じません。原付で出歩く機会が少ないせいもありますが、見通しの良い郊外道路や農道以外では30km/h以上の速度は必要ないためです。
飛び出し事故が起こりやすい住宅が立ち並ぶ路地などは元から30km/h制限ですし、ストップアンドゴーが多い都市部では30km/hで十分流れに乗れます。
歩道がある道路では路側帯を通るため、車に煽られたりしたことはこの2年間で一度もありません。また、地図で車通りの少ない新しい道路や路地を探すのも楽しかったりします。
二段階右折
二段階右折は原付一種などの小型車両にだけ該当する対面右折方法です。低速走行を余儀なくされる小型車両は、右折レーンを含む片側3車線以上の道路で二段階右折をしなければなりません。
ただし、場所によっては片側3車線以上の道路であっても「二段階右折禁止標識」が掲示されている交差点もあるため、なおさら混乱しがちです。
原付に乗っている当人ですら混乱するのですから、普段原付に乗らない自動車の運転者にとっては、二段階右折をする原付のことなど頭の片隅にもありません。
とくに原付での走行が珍しい地域では「左折レーンで右ウィンカーを出して何をやっているんだ」と周囲の誤解を招く恐れすらあります。
とはいえ、私がこの2年間で二段階右折をしたのはたったの2度ほどです。車線数が少ない地方在住であることも理由ですが、二段階右折が必要な道路は極力通らないようにしています。
原付一種の総括
周囲から嫌われがちな原付一種でも、環境さえマッチすれば十分に実用的です。5〜15km程度の移動であれば排気量50cc以下の原付一種でも何不自由なく移動できます。
原付一種は新たに免許を取得するとしても費用は1万程度。普通免許があれば乗れる手軽さも魅力です。
それ以上の距離になると「30km/h制限」と「二段階右折」のデメリットが解消される原付二種および中型バイクの方が有用です。
ただし、バイクは大きくなるほど車両価格や維持費が高くなるうえ、免許取得にも費用がかかります。
これまでバイクに乗ったことがなく、新たに乗ろうと考えているなら、用途や費用、お住まいの地域の交通事情に応じて原付一種と二種・中型を選び分けるのがベストでしょう。
ただしバイクは乗り手を選ぶ
実際に2年間、原付バイクに乗ってみて感じたのは、バイクは思っていたほど気楽に乗れる代物ではないということです。
バイクに乘るには、走行時の寒暖に耐える忍耐力や、なにかと起こる面倒事に耐えられる忍耐力が必須です。バイクカバーの脱着なども意外なほど面倒であり、車のようにサッと乗れるものではありません。
快適な移動性能を求めるなら、バイクを選ぶのは間違いであることが実際に乗ってみてわかりました。
趣味としてバイクを楽しめなければ乗り続けるのは大変です。興味本位だけでは、いずれ乗らなくなってしまうことでしょう。
運転技術や安全技術うんぬんではなく、まずはもっともコストがかからない原付一種に乗ってみて、バイクという乗り物が自分に合っているかどうかを確認するのが順当なステップであると感じました。