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4ストでも2ストでもない1ストロークエンジンってどんなの?

『e-REX』は2、ストでも4ストでもないエンジンです。最高出力は2ストロークエンジンの約2倍、4ストと比較すると約4倍もの出力を発揮できるシンプルかつコンパクトでハイパワーなエンジン『e-REX』は、小排気量内燃機関の常識を変える可能性を秘めています。

 

 

1ストロークエンジン『e-REX』とは

 

4ストロークエンジンよりもクリーンで、2ストエンジンよりも高出力が得られる夢のようなエンジンが存在します。それが1ストロークエンジンです。

聞き慣れない1ストロークエンジンとは、スペインのINNengine社のエンジニアであるJuan Garrido Requena氏が開発した新しいエンジン。

名前は『e-REX』といい、排気量500ccでエンジン重量は35kg。最高出力120馬力(hp)を発揮しながら全長400mm以下のサイズにおさまる対向ピストンエンジンです。

e-REXはただの対向ピストンエンジンではない

対向ピストンエンジンに関しては、近年アメリカのPinnacle Engines社(ピナクルエンジンズ)が注目を集めていました。

ただし、ピナクルエンジンズの対向ピストンエンジンは、既存のレシプロエンジンを対向ピストン化したものに過ぎず、クランクシャフトが2つ備わるため大柄かつ複雑な機構により車やバイク用途への使用には適しません。

それに対してe-REXにはバルブもクランクシャフトも備わらず、旧来のエンジンと全く違う画期的な構造を採用しています。それを可能とするのがエンジン両端の大きなローターです。

対向ピストンエンジンの利点である熱損失の低減と筒内流動性の向上による燃焼効率の改善に加えて、e-REXは両端に配置された波状のローターが、クランクシャフトの役割を果たすと同時に、可変圧縮機構も担います。

 

最高出力は2ストの2倍・4ストの4倍!

4ストエンジンと比較すると、内部抵抗は55%小さく、エンジン重量は70%軽量。120馬力の最高出力は2ストエンジンのおよそ2倍、4ストエンジンのおよそ4倍相当で、排気量500ccで2000ccエンジン並の出力が得られることになります。

おまけに低振動であることも特長で、エンジンの上にコインを縦に置いても倒れない様は、まるで初代レクサス LSのV型12気筒エンジンや、マツダのロータリーエンジンを思わせます。

e-REXは厳密にいえばピストン1往復2行程の2ストロークで動作するエンジンではありますが、2ストエンジンがクランクシャフト1回転で2行程を行うのに対して、出力軸半回転で2ストロークを行うため、1回転で換算すると2ストロークの半分ということで「1ストロークエンジン」と呼ぶようです。

 

e-REXの500ccで120PSとは具体的にどれくらい

e-REXとの参考比較として500ccのエンジンを搭載したバイクを探したところ、ヤマハ RZV500Rに搭載された500cc2ストV型4気筒エンジンが500ccで88馬力でした。

4ストでは同じくヤマハ SR500に搭載された500ccOHC単気筒エンジンが32馬力です。これらと比較すれば、わずか500ccのe-REXが発揮する120馬力がどれだけ高効率か伝わるでしょう。

ちなみに2スト500ccのレース車両では、NSR500は回転数12,200rpmで180馬力オーバーを叩き出し、ドイツのRonax500というバイクは11,500rpmで160馬力(hp)を発揮します。もちろん、e-REXはレースチューニングなどは施されてない素のエンジンです。

 

2ストと4ストエンジンについておさらい

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現在主流となっている4ストロークエンジンは、吸気・圧縮・膨張・排気の4行程を行うためにクランクシャフト1回転あたりピストンは2回上下動して動力を取り出します。

それに対し、2ストロークエンジンはピストンの上昇と下降の2行程の間に吸気と排気を同時に行ううえ、エンジンヘッドにポペットバルブとカムシャフトが不要であり、内部駆動抵抗も少ないため出力効率に優れ、4ストロークエンジンの2倍近い最高出力を発揮できる点が特長です。

2ストロークエンジンの欠点

2ストエンジンは吸気と排気を同時に行うため、どうしても排気ガスに混合気が混ざり込み、その一部がそのまま排出されてしまう欠点があります。

また構造上オイルパンが設置できないため、燃料にエンジンの内部潤滑のためにオイルを混合しなくてはならず、オイルも一緒に燃焼させることになるため排気ガスも汚れがちです。

マフラーにチャンバー構造を設けることで排圧コントロールし、混合気の充填効率をコントロールしているものの、チャンバー形状によって高出力が得られる回転域が限定されてしまいます。

また、排気チャンバー内の高温の未燃焼ガスなども再度吸い込むため燃焼室内の温度が上がりやすくノッキングを防ぐ目的で圧縮比も上げづらい欠点もあります。

環境問題の高まりとともに廃れた2ストエンジン

以上の理由から2ストエンジンは、4ストのように燃焼状態を細かく管理することが難しく、環境への配慮から次第に2ストエンジンは廃れ、4ストロークエンジンが主流になりました。

現在では自動車はもちろん、2ストロークエンジンを搭載したバイクはほとんど製作されていません。現在の2ストロークエンジンは単純な構造と軽さを活かして芝刈り機などの農機具などに使われる例がほとんどです。

 

連続可変圧縮も可能! e-REXの特殊な動作メカニズム

 

1ストロークエンジン『e-REX』のピストンの動きは2ストローク対向ピストンエンジンと同じです。4本あるシリンダーのうち対角上の1対同士が交代で膨張と吸排気を繰り返します。

e-REXの動作にもっとも重要なのがエンジンの両側にある「カムトラック」と呼ばれる波打った円盤です。

このカムトラックが両側のピストンを中央に押し付け圧縮を行い、燃焼膨張の力がピストンエンドのローラーを介してカムトラックの坂を下るように外側へと押し開き、直線運動を回転運動に変えます。

これを2セット2対の対向ピストンが交互に動作し、膨張と圧縮および吸排気の2ストロークプロセスが繰り返されることでe-REXは動作します。さらにカムトラックの位相を変えれば両側のピストンのストローク量も変えられるため連続可変圧縮も可能です。

単体でユニフロー掃気?

前述したようにe-REXにはバルブがなく、ポンピングロスが少ない点も特長です。

一般的な対向ピストンエンジンは、スリーブバルブなどのバルブ機構を設けるのが一般的であるのに対し、e-REXはバルブ機構を用いず、ピストンの動作だけで新気と排気が1方向へ流れる単流掃気(ユニフロー掃気)を実現しているようです。

吸気側を加圧すれば排気負圧も相まって、より効率よく掃気ができそうなものですが、ソース元では過給器の有無については触れられていないため、ポートの位置とビストンのタイミングを適切に調整することでユニフロー掃気を実現しているものと思われます。

e-REXはこれらの動作に加え、対向ピストンの高い筒内流動性によって、より少ない燃料でより多くの運動エネルギーを取り出すことができるようです。

 

新型エンジンは内燃機関の未来を変える?

 

 

製造元であるINNengine社では、e-REXをマツダ MX-5(ロードスター)や航空機に搭載してテストを行っています。動画を見た限りでは、e-REXの排気音はロータリーエンジンに似ているように思えます。

ただし、NAロータリーよりも音の粒が明確であり、爆発間隔が短いため細かな音の粒がより短い間隔の連続音となっているのが特徴です。

ただし、高質量のカムトラックが両端に備わるため、回転変動がある使い方は苦手と思われます。エンジン特性も、重いローターが回転して動作するロータリーエンジンに近いものとなるでしょう。

また構造上、ボアアップやストロークアップを行うとエンジンサイズがスケールアップのように大きくなってしまうため使用用途も限定されることになります。

そのためe-REXは車やバイクよりも、小型航空機やボートなど回転変動が少ない用途に向くエンジンだと思われます。そもそもe-REXは、現在のロータリーエンジンと同じようにEVの補助発電機(レンジエクステンダー)用途として開発されています。

 

もしe-REXがバイクに搭載されたら

e-REXの低振動で低燃費、それでいながら高出力である点はバイクにとって大きなメリットとなります。ただしバイクに搭載するには出力軸の向きが問題です。

また重量物が回転するためジャイロ効果が強く働き安定性は増すものの、回転変動が苦手であるためツアラーバイクのような性格になるでしょう。これらの特性から、e-REXがバイクに搭載されたら、ちょうどロータリーエンジン搭載車に近いものになると予想します。

ロータリーエンジンを搭載したバイクは1974年に登場した「スズキ RE5」が有名です。また2021年11月にイギリスの新興メーカーが発表した「クライトン CR700W」は、ツインローターで223馬力を発揮する690ccロータリーエンジンを搭載したバイクも存在しています。

EVや電動バイクも魅力的ではありますが、内燃機関好きとしてはこういった新しいエンジンの登場は非常に興味深いため、ブログで紹介させていただきました。

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